慰謝料請求とは

公正証書について

1. 公正証書とは

公正証書とは、私人からの依頼を受け、公証人(※1)がその権限で作成する公文書です。根拠法律は公証人法となります。
慰謝料請求事案において、和解ないし示談にあたって、合意書ないし示談書を作成することになりますが、一定数は合意書ないし示談書を公正証書で作成して、和解や示談を行うことがあります。公正証書を作成するには、公証役場(※2)において、公証人の下での手続が必要です。
公正証書は、形式的には公証人が作成することになっています。しかし、合意書ないし示談書の具体的文言は、当事者間で作成し、またそれが尊重されます。当事者が作成した合意書や示談書の文言に、法的に問題等がある場合にのみ、公証人が修正することになります。

公正証書作成の際は、まず当事者(ないしその代理人)が、事前に公証役場の公証人に対して、当事者で合意した合意書ないし示談書の文言案を送付します。それを受け取った公証人は、その内容が法的に問題ないか等を確認し、当事者双方(代理人が選任されている場合はその代理人)に、公証人が作成した合意書ないし示談書の案を送付し、当事者において、異議がなければその内容で公正証書を作成することになります。
以上を踏まえて、当事者ないしその代理人が、公証役場に赴き、公証人が公正証書作成の具体的手続を行います。当事者が代理人を選任している場合は、当事者が公証役場に行く必要はありません。
公正証書作成当日、公証人は、当事者双方の身分確認を行い、公証人が合意書ないし示談書の条項を読み上げた上で、当事者双方に異論がなければ、双方が署名押印、公正証書が完成することになります。
公正証書は、原本を1通、謄本を2通作成し、原本は作成した公証役場で保管され、謄本2通はそれぞれ1通ずつが当事者に交付されます。保管期間は20年とされています(公証人法施行規則第27条1項1号)。
公正証書作成には、公証役場で支払う費用がかかります。費用は、「公証人手数料令」に基づき全国一律です。慰謝料請求事案においては、支払うべき金額を基準に算定されます。費用の詳細は、日本公証人連合会の下記URLを参照して下さい。

○公証事務・手数料(日本公証人連合会ホームページ)
https://www.koshonin.gr.jp/notary/ow12

(※1)「公証人」とは
公証人法によれば、公証人は、一定の法律実務経験のある人から、法務大臣が任命することになっています。
公証人は、裁判官、検察官などを経験された方が圧倒的に多い印象です。
(※2)「公証役場」とは
公証役場とは、法務大臣が指定する地に公証人が設け、公証人が原則としてその職務をそこで行わなければならないとされる官庁をいいます(公証人法18条)。
鹿児島県内には、4か所の公証役場があります(鹿児島公証人合同役場、川内公証人役場、鹿屋公証役場、名瀬公証人役場)。

2. 公正証書作成のメリット、デメリット

(1)公正証書作成のメリット
公正証書作成のメリットは、次の点です。

第1は、公正証書を作成しておけば、裁判所の手続を使って、相手方の財産から強制的に回収することができるという点です。
仮に私人間で合意書ないし示談書を作成し、当事者間で慰謝料ないし解決金の支払合意をしたとしても、支払いの義務を負っている人(以下、「支払義務者」といいます。)が合意された金銭を支払わない場合、支払いの権利を有する人(支払いを請求できる人。以下、「支払権利者」といいます。)は、ただちに支払義務者の財産から強制的に回収することは出来ません。強制的に回収するためには、裁判所に訴訟を提起し、判決ないしそれと同一の効力を有する書面(和解調書など)を取得した上で、支払義務者の財産を差し押さえなければならず、費用、時間及び手間がかかることになります。
しかし、公正証書を作成しておけば、仮に支払義務者が支払いをしない場合においても、支払権利者は、ただちに裁判所に強制執行の申立てを行い、支払義務者の財産を差し押さえるなどして、強制的に回収することが可能となります。これを「執行力」といい、執行力の付された一定の書面を「債務名義」といいます。
なお、公正証書に執行力をつけるには、公正証書の中に、当事者である支払義務者が強制執行を受諾する文言(これを「強制執行受諾文言」といいます。)が必要になります(民事執行法22条5号。債務名義となっている公正証書を、「執行証書」といいます。)。

第2点目は、公正証書は証拠価値が高い、という点です。すなわち、仮に和解や示談の効力が、後に裁判所で争われた場合においても、公正証書であれば、公証役場で法律の専門家である公証人の下で作成されていることから、その効力を覆すことは通常困難であるといえます。現に、公正証書がよく用いられる「遺言書」においても、公正証書で作成された遺言(これを「公正証書遺言」といいます。民法969条)には、高い証拠価値が認められる傾向にあります。

第3点目は、公正証書は、作成した公証役場で保管されるということです。したがって、紛失や盗難にあった場合においても、再度発行することができますし、改ざんされる危険もありません。

(2)公正証書作成のデメリット
これに対して、公正証書作成のデメリットは以下の点です。

第1は、公正証書はあくまで当事者が合意した内容に、執行力や証拠価値を付加するものに過ぎないという点です。すなわち、事実関係や和解ないし示談金額に争いがあり、当事者間でその内容について合意が出来なければ、裁判所の手続(民事訴訟や調停)によって解決する必要があります。公証役場において、紛争解決のための話合いをすることは出来ません。

第2は、公正証書を作成するには、一定の手数料などの費用がかかるという点です。

第3は、公正証書を作成するには、当事者が公証役場に赴く必要があるということです。ただし、代理人を選任した場合には、代理人が公証役場に赴きますので、この限りではありません。

なお、前述した「執行力」を付加することが出来る点は、支払権利者にとってはメリットがありますが、支払義務者にとっては、支払いをしなければ財産を強制的に回収されるリスクを有しているということになり、デメリットとなります。ただし、公正証書に執行力という担保が付加されることによって、支払権利者が、裁判外での和解ないし示談に応じる方向に進むという点では、支払義務者にとってメリットともいえます。

3. 不倫・不貞慰謝料請求における公正証書について

公正証書の特質や公正証書作成のメリット・デメリットを踏まえた上で、不倫・不貞行為を理由とする慰謝料請求を行ったり、慰謝料請求を受けたりした場合に、公正証書を作成することを検討するとよいでしょう。

当事務所の弁護士が公正証書の作成をサポートする場合、慰謝料請求を解決する合意書案または示談書案を作成します。この合意書案または示談書案をあらかじめ公証人に送付し、必要な調整を行った上で、円滑な公正証書の作成が行われるようにサポート致します。
当事務所の弁護士は、慰謝料請求を行い、または慰謝料請求を受ける依頼者の代理人となりますので、公正証書作成時に代理人として公証役場に赴き、公正証書作成による慰謝料請求の解決業務を提供しております。

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